HitoriYogari

さよならエンタメ精神

今日私はゴロゴロとTVを観る

もうこんな風にできるのも、最後かもな。
そんな言葉が飛び交い始めた、大学四年
、目前の冬。
長い長い学生時代だった。
小学生の僕が、いまの僕を道端で見かけても、きっと気づいてはくれないだろう。それくらい、僕も、みんなも、大人になった。

ドラクエに熱中しすぎて、現実とゲームとの境があやふやになったのはいつだったか。
ついこの間は、何日もかけて、鈍行で本州の端っこまで行ってきた。
ありあまる時間は学生の特権。素晴らしき青春の日々だ。

異変が来たのは、一年前くらいだっただろうか。
誰と、どこで、いくら遊んでも、心身を完全に満たすような充実感を得られなくなってしまった。どこかで、足りない部分がある。
そして、段々と、「無駄に時間を浪費している」感覚を覚えてきてしまった。
こんなことをしていていいのだろうか?
頭の隅で囁くもう一人の自分が、現れるようになった。
お金を稼ぎ、独り立ちして、社会の一員になる。僕の心は、自然と、それを望んでいるようだった。
もちろん、就職なんてしたくない。ずっと遊んでいたい。だけど、本当の本当にそうしたいか、と問われると、僕は閉口してしまう。やっぱり、僕が僕として、社会に生きる場所を確保しなければいけない、心の底でそう思うのだ。
だから、あと少しの間、精一杯遊びたい! いま、強くそう感じている。
人でもモノでも、別れの直前は、妙に愛おしく感じるものだ。

学生最後の一年。
貴重な時間だからじっくり過ごそう、とは思わない。
だらだら、ぐだぐだ、くだらないことで笑いあって、くだらないことで悩んで、あっという間にすぎていけばいい。
『明日世界が終わるとしても、今日私はリンゴの木を植える』じゃあないけれど、『来年で学生生活が終わるとしても、今日私はゴロゴロとTVを観る』といった具合で。
だって、もうこんな風にできるのも、最後なんだから。