HitoriYogari

さよならエンタメ精神

フォーエバーヤング

真実なんてない、どこにもない、心の中にもない、ただ目の前の出来事を真実だと思っているだけだ!  そんな歌を、歌うぜ。
とボーカルの男は言って、モッシュピットは最高潮に達した。彼流に言えば、東京のアンダーグラウンド、狂っていたほうがカッコいいそこは、僕にとって、案外居心地の良い場所だった。
フォーエバーヤング、フォーエバーヤング。
彼らは三回も同じ歌を歌って、フロアはどんどん勢いを増した。

ボーカルの男は三十路、ライブハウス以外では、ゴニョゴニョ喋る、つまらないヤツ。
ドラムの男は、今日が誕生日。三十三歳童貞で、実家暮らしのフリーター

このバンドの持つ幸福感は、俺の苦悩から生まれているのさ。ボーカルは言う。感動商法に引っかかりやがって。ボーカルは言う。てめえらは十円くらいの価値しかねえ。ボーカルは言う。

十円なめんなよ! と野次が飛んで、ボーカルは嬉しそうにニヤついて、また歌う。
フォーエバーヤング、フォーエバーヤング。


ブルーハーツの言う、決して負けない強いチカラってなんだ? 俺は信じることだと思った。それだけだが、それができるヤツはごくわずかだ」

このライブのために用意したPVで、彼は言った。
これは奇しくも、僕の師と同じ台詞だ。

フォーエバーヤング、フォーエバーヤング。
やり続けること、表現し続けること。
幸福に包まれたフロアで、男は奇妙に歌い踊り続ける。

真実なんてない、どこにもない、心の中にもない、ただ目の前の彼らだけを、僕は真実だと思った。